幕末Rock

キラキラRock青春の日々

ここはとある閑静な住宅地。
他の邸宅よりも一際高い位置にあるこの場所に、怒声が響きわたる。

「あああーーーーっ!違う、違う、違う!そうじゃねえ!」

「シンディ!さっきのところ、めちゃ良かったぜよ〜!」

「良くねえよっ!バカ龍馬!お前のは鳴らしたい音を鳴らしてるだけだ!
そんなのRockじゃねぇ!」


「鳴らしたい音を鳴らす、歌いたい歌を歌うからこそ、Rockじゃろう?」

口をとがらし、明らかに不満気な龍馬の様子に、高杉の怒りが爆発する。

「あぁっ!やっぱお前とはやってられねぇ!
か・い・さ・ん。解散だああああぁっ!!」


指を合わせながら、合掌する高杉の前に、
そっと差し出される純白のふわふわ手拭タオル。

「晋作、汗を拭いてください。濡れたままだと風邪をひきますよ」
 
そのぬくもりは、今まさにとりこんだばかりの日のぬくもりと、
心地良い香りを発散させている。

「お…おう、桂さん悪ぃな………うーーん、、、いい薫りだ。
って違ーう! 桂さん、これじゃあ幕府の愛獲アイドルに、新選組に勝てねーよ!」


投げ捨てた手拭が、楽譜を床にまき散らす。
その瞬間、桂の異様な雰囲気に気づき、慌てて手拭を手に取り直す。

「桂さん、これは……」

「晋作、いいですか。
まず勝つ、勝たないの前に私たちにとって何が大事なのか、良く理解することです。

先人が私たちのために残してくれた譜面は、偉大なる遺産です。

それに、その手拭だって、晋作が練習で汗をかいているだろうと思い、
お日様にあててふわっふわっにしておいた物です。

先人の偉大さを大事に出来ない、友のそんな気遣いにさえ気づけない晋作は、
彼を知り、己を知れば百戦危うからず。

迂を以って直となし、患を以って利となす。
結果だけ求めても急がば回れですよ」


パシッと手を叩く音に、二人の視線が集まる。

「さっすがセンセーじゃ!シンディ、急がば回れぜよ!」

「うるせえ! お前は、ぜぇってぇー意味がわかってねぇ!」

「ふー。まあ、晋作が焦る気持ちも分かりますがね。
天歌ヘブンズソングしか認めない、幕府のやり方はさらに過激さを増し、
天歌ヘブンズソングの虜となった人々は洗脳され、このままじゃあ、
この国は幕府の、いえ徳川の好きにされてしまいます」


「桂さん、だからこそ、このままじゃあ駄目なんだろ!?
龍馬の演奏技術テクはひいき目に見ても、下手くそ極まりねぇ!
このままじゃあ、あいつらには千年たっても勝てねぇよ!」


高杉の目を覗き込み、ゆっくりと語る龍馬。

「………シンディは勝ちたいんか?ワシは自分の好きな歌を歌いたい。
誰かに決められた歌じゃなく、ワシの魂を、熱情パッションを、
みんなに知ってもらいたいんじゃ。それじゃ駄目かのう」


どこか寂し気その口調に、目をそらす高杉。

「チッ………」

「あはは。一本って所ですかね。
松陰先生も言ってましたよね、“No Passion No Rock(熱情無くしてRock無し)”」


高杉は、龍馬と桂を一瞥し、背を向け、息を大きく吸い込んだ。


「………ええい!くそっ!
龍馬、再開するぞ、オレ様についてこいよ!」


「おう!ワシのロックをこの日の本に轟かせるぜよ!」

「次のところ、合わせ、行きますよ!」

「おうっ!」

「やるぜよっ!」

龍馬たちのRockが日の本いっぱいに響くのはまだ少し先の話である。

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